ストライクエニイホエア -Side B-
at hospital 
2013.08.20 Tue 21:38


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はせがーさんはタバコを吸うの?

老眼鏡をずらして僕を上目遣いで見るおばあちゃんの目は

まるで子どものようにキラキラしていて、

ニッコリと笑う前歯には金歯が一本これまたキラリ。

上品なように見えるけど、言いたい事はハッキリ言い、

ケタケタと笑い飛ばすそれは人生をさも楽しんでいるようで

とても清々しくて僕もつい笑ってしまう。

吸いますよ、おばあちゃんも吸うの?

「あたしパーラメント吸うの。」

入院前は一日10本ほどのタバコを吸っていたと話すおばあちゃんは

ここじゃ吸えないのよねえと全館禁煙で喫煙所のない病院に文句をひとしきり言い、

そして笑う。

僕は言う。「じゃあさ、一緒に外でタバコ吸いに行く?」

原則入院患者は院外に出るのは禁止なのは僕もおばあちゃんも承知なのだけど

「アバンチュールね」

そう言いながらニッコリと金歯をきらめかせた。

うん、ばれたら二人で一緒に怒られよう。

二人合わせて140歳にもなる大人が怒られるのも楽しいかもしれないね。

僕が押す車椅子に乗りながらおばあちゃんは楽しそうに鼻歌をふんふんと歌い、

アバンチュール、アバンチュールとまた歌う。

二週間ぶりに外に出たおばあちゃんは日差しにまぶしそうに目を細め、

南風に白髪の前髪を乱しながら、ああ、気持ちいいねえと深呼吸する。

ひとっ走りして買ってきたパーラメントの箱からタバコを取り出し、

一本咥えて火をつけてからおばあちゃんに渡す。

病気はないから大丈夫だよ。

「間接キスね」

そんな言葉知ってるんだ。

おばあちゃんはニコリと笑い、タバコを空にふかす。

水色の空にタバコのケムリは舞い、そして南の風にかき消されていく。

「ああ、特別においしい」

病院って病気や怪我を治すところだけど、

メンタル面では我慢しなきゃいけないことも多かったりしちゃうわけで、

患者にはストレスを感じる人も結構いるんだ。

僕は医者でも看護師でもなくて何も出来ないわけで、

こうしてたまには心の拠り所を作ってあげたいと思うのだけど、

でもまあそれは病院としては禁止事項ばかりなのでナイショね。

白髪のみだれ髪のおばあちゃんと僕は色んな話をして

そして二人でありがとねと同時に言い、灰皿にタバコを押し付けて消した。

残暑残る夏の日。

退院おめでとう。またいつか一緒に一服しましょう。


















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Author: 長谷川シン  
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