ストライクエニイホエア -Side B-
life goes on 彼女は自分の美しい爪をいつもきれいに大事にしている。 
2013.07.11 Thu 20:30



その人は病気で声を失い、薬で髪の毛を失って、ツライ闘病生活を送っている。

それでも病室ではいつも優しい笑顔で僕を迎えてくれる。

彼女と僕との会話は僕が喋り、彼女は筆談。

でも大体いつもは手を振って、おはよう、こんにちわ、また明日って

にこやかな笑顔と手振りだけなのだけれども、それで十分なんだ。

ある日僕が病棟の廊下を歩いていると、彼女が僕をそっと手招きする。

病室に入ると彼女は僕のポケットにそっとどら焼きを忍ばせて

笑いながら口元に人差し指を立ててシイーっ。

原則として病棟で患者さんからモノを貰ってはいけないのだけれど

僕は現金以外ならニコヤカにありがとうと受け取る事にしている。

だから僕のポケットには飴やら、缶コーヒーやら、かりんとうやら、

時々は桃の缶詰なんかが入っているんだ。

そして今僕のポケットにはどら焼き。

ありがとう、ご馳走様ですとお礼を言うと

彼女は手を左右に振り、いいのいいのと苦笑いして

それから僕に向かって手を合わせてごめんねと頭を下げた。

闘病中の彼女は外出する事も出来なくて、

買い物をするのは病院の小さな売店くらいしかなくて、

大したものが買えなくてごめんなさいと頭を下げた。

謝る事なんかこれっぽっちもないのに。

僕は甘党なんだから三時のおやつにおいしく頂きますよと

またありがとうを言う。

僕と彼女は原則モノを渡す事を禁止している事を思い出して

周りを見渡しながらまた笑った。

三時になり、僕は缶コーヒーをぷしゅうと開けて

ポケットから貰ったどら焼きを引っ張り出す。

包み紙に包まれたどら焼き。

その包装紙には値札のラベルがぺたんと貼ってあって、

人にプレゼントする時にお店で値札を外してもらうように

その小さなラベルの値段の部分がボールペンで黒く塗りつぶしてあった。

彼女の気遣いとゆーか気持ちとゆーかいろいろが僕に押し寄せてきて、

僕はちょっと胸が熱くなる。

彼女は病気で体力も失いつつある中で、小さな値札を剥がす指先の力がない。

だからせめて筆談用に使っているボールペンで値段を消したんだ。

しばしどら焼きの包装紙を眺め、僕はえいやっと包装紙を破いて

どら焼きに食いつく。

なんつーかバカウマなんだよ。

食べたら彼女にお礼をしに行こう。

あなたのおかげで僕はいつも元気と勇気を貰っていますと。











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Author: 長谷川シン  
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